僕がAGAクリニックの扉を叩くまで
鏡に映る自分を見るのが、いつからか苦痛になっていた。シャワーを浴びれば、排水溝に溜まる抜け毛の量に心が沈み、風が吹けば、無意識に手で生え際を隠してしまう。そんな日々が、もう二年近く続いていた。市販の育-毛トニックを試し、頭皮マッサージが良いと聞けば毎晩のように続けたが、気休め以上の効果は得られない。認めたくはなかったが、僕の髪は明らかに薄くなっていた。父も祖父もそうだったから、いつかは、と覚悟はしていたつもりだった。でも、いざ自分の身に降りかかると、その現実は想像以上に重く、僕の自信を静かに、しかし確実に蝕んでいった。そんな時、インターネットの広告で「AGAクリニック」という文字が目に飛び込んできた。知ってはいた。でも、それは自分とはどこか違う世界の、もっと深刻な人が行く場所だと思い込もうとしていた。恥ずかしい。情けない。そんな気持ちが、僕の足を縛り付けていた。しかし、ある日の同窓会が、僕の心を大きく揺さぶった。久しぶりに会った友人たちと話していても、相手の視線が自分の頭に集まっているような気がして、心から楽しむことができなかったのだ。このままではいけない。髪のことで、これからの人生まで消極的になってたまるか。その夜、僕は半ば衝動的に、スマホでAGAクリニックの無料カウンセリングを予約した。予約ボタンを押す指は、少し震えていた。恥ずかしさや不安が消えたわけじゃない。でも、それ以上に「このまま悩み続ける自分から変わりたい」という気持ちが、僕を突き動かしたのだ。クリニックの扉を叩く。それは、僕にとって単なる薄毛治療の始まりではなく、失いかけた自信を取り戻すための、人生をかけた戦いの始まりでもあった。