AGAクリニックに通う僕が手に入れた髪以外のもの
AGAクリニックに通い始めて、一年半が経った。今、鏡の中の僕は、治療を始める前の自分とは明らかに違う。気にしていた頭頂部の地肌はほとんど見えなくなり、髪全体に力が戻ってきた。美容室で好きな髪型をオーダーできるようになったし、強い風が吹いても、以前のようにビクビクすることはない。物理的な変化は、期待以上だった。でも、僕がこの一年半で手に入れたものは、決して髪の毛だけじゃなかった。僕が本当に手に入れたもの、それは「心の余裕」とでも言うべきものかもしれない。治療を始める前の僕は、常に他人の視線を意識して生きていた。人と話していても、相手は僕の頭を見ているんじゃないか。電車で前に座った人は、僕の頭頂部を笑っているんじゃないか。そんな、根拠のない被害妄想に囚われ、いつも心に小さなトゲが刺さっているような状態だった。そのトゲが、僕から自信を奪い、何事にも消極的にさせていた。しかし、髪の状態が改善されるにつれて、その心のトゲは少しずつ小さくなり、いつしか消えてなくなっていた。他人の視線が気にならなくなったのだ。いや、正確に言えば、他人がどう思おうとどうでも良くなった、という方が近いかもしれない。髪へのコンプレックスという、重く分厚い鎧を脱ぎ捨てたことで、僕は本来の自分を取り戻すことができた。仕事のプレゼンでは、堂々と前を向いて話せるようになった。プライベートでは、新しい出会いの場にも積極的に顔を出すようになった。AGAクリニックでの治療は、僕にとって、失われた髪を取り戻すための作業ではなかった。それは、髪の悩みによって歪められていた僕自身の心を、本来あるべき姿に「治療」するための、かけがえのない時間だったのだ。