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AGAじゃないと言われ途方に暮れた僕が本当の原因を見つける話
「これはAGAじゃありませんね」。クリニックの診察室で、医師から告げられた言葉に、僕は一瞬思考が停止した。三ヶ月ほど前から明らかに抜け毛が増え、生え際も心なしか後退している。父も祖父もそうだったから、自分もついにAGAが始まったのだと固く信じ込んでいた。だから、今日の診察は、その事実を受け入れ、治療への第一歩を踏み出すための覚悟の場だったはずだ。それなのに、まさかの「AGAじゃない」という診断。安堵するどころか、僕の心の中は「じゃあ、この抜け毛は一体何なんだ?」という、より深い迷宮へと突き落とされた。医師は、頭皮に炎症が見られることから、シャンプーのしすぎやストレスによるものの可能性を指摘してくれたが、僕の中ではどうしても腑に落ちなかった。それからの一ヶ月、僕は途方に暮れていた。抜け毛は相変わらず続いている。原因がわからないという恐怖は、AGAだと覚悟していた時よりもずっと重くのしかかってきた。このままではダメだ。そう思った僕は、勇気を出して別の皮膚科専門医のいるクリニックの扉を叩いた。セカンドオピニオンを求めたのだ。新しい医師は、僕の話をじっくりと聞いた後、マイクロスコープで丁寧に頭皮を観察し、こう言った。「頭皮に常在するカビの一種が、皮脂をエサに増殖して炎症を起こしていますね。これは脂漏性脱毛症です」。その瞬間、目の前の霧が晴れるような感覚だった。原因が特定された安堵感は計り知れない。処方されたのはAGAの薬ではなく、炎症を抑える塗り薬と、カビの増殖を抑える成分の入ったシャンプーだった。治療を始めて二ヶ月、頭皮の赤みとかゆみは引き、そして、あれほど僕を悩ませていた抜け毛が、明らかに減ってきたのだ。AGAじゃないと言われたあの日の絶望は、正しい診断と治療にたどり着くための、必要な回り道だったのかもしれない。