AGA治療における初期脱毛という現象を単なる「副作用」として片付けるのではなく、科学的な視点からヘアサイクルのメカニズムと関連付けて深く理解することは、治療への納得感を高め、不安を解消するために極めて有効なアプローチです。私たちの髪の毛は、毛母細胞が活発に分裂して髪が伸びる「成長期(2〜6年)」、成長が止まり毛包が縮小する「退行期(2〜3週間)」、そして髪が抜けるのを待ちながら次の髪の準備をする「休止期(3〜4ヶ月)」という三つのフェーズを絶えず繰り返していますが、AGA患者の頭皮では、男性ホルモン(DHT)の攻撃により成長期が極端に短縮され、髪が太く育つ前に退行期・休止期へと移行してしまうため、頭皮上には細く短い毛しか残らず、休止期の毛包の割合が異常に増加している状態にあります。ここでフィナステリドやミノキシジルといった治療薬を投入すると、これらの薬剤は休止期で活動を停止していた毛包に対して強力な「起床命令」を出し、一斉に成長期へと誘導します。すると、毛包の深部で新たな毛母細胞の分裂が始まり、新生毛(新しい髪)が形成され上方へと成長を開始しますが、この時、毛包内に留まっていた旧毛(古い髪)は、下から突き上げてくる新生毛によって物理的に押し出されることになります。これを専門用語で「新生毛による旧毛の突き上げ現象」と呼びますが、これこそが初期脱毛の正体であり、休止期にあった毛包が多ければ多いほど、つまり薄毛が進行していればいるほど、この突き上げ現象は広範囲で発生し、一時的な抜け毛の増加として顕著に現れることになります。科学的に見れば、この抜け毛はヘアサイクルが病的な「短縮サイクル」から正常な「長期成長サイクル」へとリセットされる瞬間に生じる一時的なラグのようなものであり、抜けた毛の毛根を観察すると、棍棒状の形をした休止期毛(自然脱毛するはずだった毛)であることがほとんどです。また、初期脱毛が起こるということは、薬剤の成分が血流に乗って毛乳頭に到達し、細胞レベルでの反応を引き起こしていることの証明でもあり、薬物動態学的にも治療が順調に進んでいることを示唆しています。このように、初期脱毛を感情的に捉えるのではなく、細胞生理学的な現象として客観的に捉えることができれば、毎日の抜け毛に一喜一憂することなく、体内で起きている劇的な再生プロセスを静かに見守る余裕が生まれるはずです。
科学で読み解くヘアサイクルと初期脱毛の関係性