AGA治療を始めて、もう五年が経とうとしていた。三十代前半で始めた治療は劇的に効き、私は失いかけていた自信と、そして髪の毛を取り戻した。毎朝鏡を見てため息をつくこともなくなり、雨の日や風の強い日も、以前のように人の視線を気にすることはなくなった。治療薬は、もはや私にとって生活の一部であり、毎日歯を磨くのと同じくらい当たり前の習慣になっていた。そんなある日、小学生の息子が私にこう尋ねた。「お父さん、そのお薬、なんのお薬なの?」。私は言葉に詰まった。これまで深く考えたことはなかったが、この先もずっと、子供に隠すようにして薬を飲み続けるのだろうか。そして、私が支払っている毎月の治療費は、決して安いものではない。このお金があれば、家族でもっと旅行に行ったり、子供の将来のために貯蓄を増やしたりできるのではないか。ふと、そんな思いが頭をよぎったのだ。その日を境に、私の心の中に「やめどき」という言葉が浮かんでは消えるようになった。もちろん、やめればどうなるかは分かっている。あの頃の不安な日々に逆戻りするかもしれない恐怖は、体に染み付いている。しかし、五年という月日は、私に髪だけでなく、ある種の心の余裕も与えてくれていた。今の自分なら、たとえ少し髪が後退したとしても、以前のように絶望することはないかもしれない。私は意を決して、長年お世話になっているクリニックの先生に、正直な気持ちを打ち明けてみることにした。経済的なこと、子供のこと、そして自分の価値観の変化。先生は私の話をじっくりと聞いてくれた上で、いきなりやめるのではなく、まずは薬の量を減らしてみる「減薬」という選択肢を提案してくれた。その言葉に、私は肩の荷がすっと下りるのを感じた。終わりなき戦いだと思っていたAGA治療に、自分なりの着地点を見つけられるかもしれない。そう思えた、記念すべき一日だった。