AGAという病気の最も恐ろしい点は、それが痛みや痒みといった自覚症状を伴わずに、サイレントキラーのように静かに、しかし確実に進行していくことであり、多くの人が「まだ大丈夫だろう」「もう少し薄くなってから考えよう」という正常性バイアスによって判断を先送りにし、気づいた時には取り返しのつかない手遅れの状態、あるいは回復に膨大な時間と費用がかかる状態に陥ってしまうことです。AGAの進行メカニズムは、男性ホルモンが5αリダクターゼという酵素と結びつきDHTに変換され、これが毛根を攻撃してヘアサイクルを短縮させるというものですが、この攻撃は24時間365日休むことなく続けられており、治療をしない限り止まることはありません。初期段階であれば、毛包はまだ大きく元気であり、少量の内服薬で容易に回復させることができますが、放置期間が長くなればなるほど毛包はDHTの攻撃を受け続けて疲弊し、どんどんミニチュア化(縮小化)していき、最終的には産毛すら作れないほどに萎縮してしまいます。この「毛包の萎縮」が進行すればするほど、治療薬に対する反応性は著しく低下し、初期なら月数千円の薬代で済んだものが、進行してからは高額なメソセラピーや自毛植毛が必要になり、経済的な負担は何倍、何十倍にも膨れ上がることになります。さらに恐ろしいのは、一度失った毛根を取り戻すことは現代医学でも不可能(再生医療の実用化を待つしかない)であるため、完全に死滅してしまったエリアに関しては、どんな名医でも「元通り」にすることはできないという不可逆的な損失です。私がカウンセリングで出会った多くの患者様が口を揃えて言うのは、「もっと早く来ていればよかった」という後悔の言葉であり、「まさかここまで進行が早いとは思わなかった」「市販のシャンプーでなんとかなると思っていた」という誤った認識が、貴重な治療の好機を奪ってしまったのです。AGAは進行性の「疾患」であり、虫歯や癌と同じように、自然治癒することは絶対にありません。鏡を見て「最近ちょっと薄くなったかな?」と感じたその瞬間が、実はすでに進行の中期に差し掛かっている可能性すらあり、そこから目を背けて放置することは、自分の髪に対する緩やかな自殺行為に等しいと言えます。脅かすわけではありませんが、手遅れになってから泣くのではなく、まだ選択肢が豊富に残されているうちに現実を直視し、専門家の診断を受けることが、将来の自分に対する責任であり、最大のリスクマネジメントなのです。